昨年末から今年の正月にかけて,私は免震マンションの引き抜き面圧と格闘してました。おかげで年賀状も出しそびれましたし,元旦と二日以外は働いてました。
昨年12月に入ってから戴いた仕事なんですが,年明け早々の委員会にかける案件なので,相手先構造事務所でおおむね設計は終わってたんですが,45度方向加力でどうしても四隅のLRBの引き抜き面圧が−1N/mm2を超えてしまって,にっちもさっちも行かないって状況でした。
なんで引き抜きが生じる可能性の高い四隅にLRBなんだよ?って声も聞こえてきそうですが,これには色々な事情があるんです。ここでは触れません。
私をよく知る向うの担当者は,私が過去に「免震材料の引き抜き時のバネを非線形にして解析するとうまく行くよ」って話したことを覚えていて,それで私に依頼が来たってわけです。
免震建物の上部構造の設計は,レベル2応答に対して短期許容応力度以下で設計されることが一般的だと思いますので,上部構造の設計に一貫構造計算プログラムを用ることも一般的だと思います。
そこで,免震材料に働く軸方向力を求める際には,あらかじめ予備応答解析を行って決めた設計用せん断力が作用したときの水平荷重時支点反力に,静的転倒モーメントと動的転倒モーメントの比率を乗じた値で面圧を検討されると思います。もちろんこれで収まれば一番いいんですが・・・。
しかし,現実には超高層建物にもアスペクト比の大きな建物にも免震構造が採用されてますので,引き抜き面圧と格闘せざるをえないケースに遭遇することはよくあることです。
一貫プログラムの鉛直支点バネには,免震材料カタログに示される鉛直剛性を与えているはずです。ゴムのバネといってもRCの柱と変わらないほど大きな圧縮剛性があります。ゴムでできていて水平方向には極めて軟らかいのに,圧縮方向にはコンクリート並みの剛性を持つ免震材料を作ったってことが凄いと思います。これがなけりゃ今日の免震構造はありえません。
でも,引き抜かれたときはどうなるの?RC並みの剛性?
いえそうではありません。引き抜き時は内部の鉄板が効きませんのでゴムだけの剛性になります。一般に技術資料や免震材料メーカーの人間に聞いた情報をまとめると,おおむね圧縮剛性の1/10〜1/20程度の鉛直剛性になるようです。
ということは,ゴム系の免震材料は引き抜かれた時点で鉛直剛性が低下するんだから,その時点で引き抜き力は他の支点へ流れて行くはず。だから,圧縮剛性を与えて求めた支点反力に動/静OTM比率を乗じる
(=線形)ような増減ではなく,
引き抜き時の鉛直バネを非線形にすれば,引き抜き面圧との戦いから開放されると考えたわけです。
今回のように,袋小路に迷い込んだような状況では,少なくとも有利に戦えることは間違いありません。
これを解析的に正しく再現し,どこの偉い先生方に見ていただいても納得していただけるロジックとしてまとめれば,相手先建築士もきっと喜んでくれるに違いない。
口で言うのは簡単ですが,免震構造の評定案件では上下動のこともありますので,一貫計算で非線形解析を行うと,通常案件のようにEXCELシートか何かで別途計算するような外部処理はできなくなります。具体的な方法については,このブログで追々話して行きたいと思います。
ただ,この方法は面圧を一回検討するのに恐ろしく時間がかかることだけが難点ですね(苦笑)。
とりあえず,メーカーさんは免震建物の設計に用いることを想定したわけではないでしょうが,多くの構造事務所で使われている
ユニオンシステムさんの
「Super Build/SS3」を使って出来ます,とだけ申し上げておきます。