文系出身者の建築構造計算 GenS Weblog

建築構造計算に関する情報 と 文系出身のGenSが極めて私見を綴ったWeblogです。たまに趣味ネタも書いてます。


免震建物の引き抜き面圧との格闘 その3

これまでに,免震材料の鉛直剛性の非線形性を考慮した面圧検討の手法を,その1〜2とお話ししてきましたが,今年最初に免震案件の仕事を戴いたお客様からの情報で,多少手間が省けることが判明しましたので,今日はその3としてお話しします。

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捩れ振動解析

今年最初で最後となるであろう免震建築物の捩れを考慮した時刻歴応答解析を行いました。

高さこそありませんが,免震材料の数は三桁ありますので,平面的には結構な規模です。しかも,上部構造の平面的な剛性バランスは決して良好とは言えません。偏心率で言えば0.15を満足していません。

設計は並進解析結果を用いてお客様の方で進められており,ほぼ終了したような状況です。

「設計の終盤に捩れ振動なんかやって,もし捩れたらどうするの?」って声はありませんよね(笑)。

たとえ上部構造がどんな状態だろうが,捩れることは絶対ありませんから。もしあるとすれば,私がどこか間違った計算をしていることになります。だから最初から何も心配などしません。

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免震構造普及への想い

それは免震構造というものが存在することを知ったときから,今までずっと胸の奥にある想いです。

にも関わらず,普及のスピードは遅々として上がらず,イニシャルコストの問題ばかりに終始して,結局は採用されない状況を沢山見てきました。

また「免震構造にしましょう!」という提案と,それを採用するか否かを決定する者(おおきな影響力を持つ者)が,大抵の場合において構造設計者ではないという現実も知りました。

このことは免震に限らず,通常の耐震構造の一般建築物でも同じです。より耐震安全性のグレードの高い材料・構(工)法の採用を,構造設計サイドから提案するケースは,私が知る限り極めて稀です。
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免震建物の引き抜き面圧との格闘 その2

免震材料の面圧を検討する際の軸力は,一貫構造計算プログラムで得られた地震荷重時の支点反力に,免震層における転倒モーメントの静/動比率を乗じた値を用いることが一般的だと思います。

長期軸力算出用の積載荷重は,架構設計用のままの場合が多いと思いますが,わざわざ地震荷重時用にして別途求められる正攻法的な設計者もいます。

かと思えば,長期軸力は架構用積載で,上下動による変動成分だけは地震用積載にするというちょっといいとこ取りのような方も中には居られます。

また,免震材料の鉛直剛性については,高層系で軸力の変動が大きな場合では,支点の鉛直バネとして免震材料の圧縮剛性を与えられる方が多いと思いますし,倉庫等の比較的低層の場合では鉛直バネは固定のままという場合もあるでしょう。

しかし,これらの支点反力に関係する条件は,設計者の工学的判断の範疇であって,静的な反力結果に静/動O.T.M比率を乗じて動的な反力結果を得ているという意味では(支点反力の変化がO.T.M比率によるLinearな変動),なんら変わりありません。

私が行っている方法は,積層ゴム支承の圧縮剛性に対する引張剛性が1/10〜1/20程度である事実に着目し,地震荷重による支点反力の変動と上下動を考慮して,支点反力が長期軸力を下回って負に転じた瞬間に,支点バネを圧縮時の1/10〜1/20に低下させるというものです。

つまり,免震材料の鉛直剛性に関する非線形性を評価した計算を,一貫構造計算プログラムであるSuperBuild/SS3(以下,単にSS3と記述)を使って行うものです。

引き抜き時の剛性が変化するという意味では,IBTワッシャー等の皿バネを用いて引き抜き時に抵抗しない場合も,バネを微少値に設定することで表現可能です。
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免震建物の引き抜き面圧との格闘

昨年末から今年の正月にかけて,私は免震マンションの引き抜き面圧と格闘してました。おかげで年賀状も出しそびれましたし,元旦と二日以外は働いてました。

昨年12月に入ってから戴いた仕事なんですが,年明け早々の委員会にかける案件なので,相手先構造事務所でおおむね設計は終わってたんですが,45度方向加力でどうしても四隅のLRBの引き抜き面圧が−1N/mm2を超えてしまって,にっちもさっちも行かないって状況でした。
なんで引き抜きが生じる可能性の高い四隅にLRBなんだよ?って声も聞こえてきそうですが,これには色々な事情があるんです。ここでは触れません。
私をよく知る向うの担当者は,私が過去に「免震材料の引き抜き時のバネを非線形にして解析するとうまく行くよ」って話したことを覚えていて,それで私に依頼が来たってわけです。

免震建物の上部構造の設計は,レベル2応答に対して短期許容応力度以下で設計されることが一般的だと思いますので,上部構造の設計に一貫構造計算プログラムを用ることも一般的だと思います。
そこで,免震材料に働く軸方向力を求める際には,あらかじめ予備応答解析を行って決めた設計用せん断力が作用したときの水平荷重時支点反力に,静的転倒モーメントと動的転倒モーメントの比率を乗じた値で面圧を検討されると思います。もちろんこれで収まれば一番いいんですが・・・。

しかし,現実には超高層建物にもアスペクト比の大きな建物にも免震構造が採用されてますので,引き抜き面圧と格闘せざるをえないケースに遭遇することはよくあることです。
一貫プログラムの鉛直支点バネには,免震材料カタログに示される鉛直剛性を与えているはずです。ゴムのバネといってもRCの柱と変わらないほど大きな圧縮剛性があります。ゴムでできていて水平方向には極めて軟らかいのに,圧縮方向にはコンクリート並みの剛性を持つ免震材料を作ったってことが凄いと思います。これがなけりゃ今日の免震構造はありえません。

でも,引き抜かれたときはどうなるの?RC並みの剛性?

いえそうではありません。引き抜き時は内部の鉄板が効きませんのでゴムだけの剛性になります。一般に技術資料や免震材料メーカーの人間に聞いた情報をまとめると,おおむね圧縮剛性の1/10〜1/20程度の鉛直剛性になるようです。
ということは,ゴム系の免震材料は引き抜かれた時点で鉛直剛性が低下するんだから,その時点で引き抜き力は他の支点へ流れて行くはず。だから,圧縮剛性を与えて求めた支点反力に動/静OTM比率を乗じる(=線形)ような増減ではなく,引き抜き時の鉛直バネを非線形にすれば,引き抜き面圧との戦いから開放されると考えたわけです。
今回のように,袋小路に迷い込んだような状況では,少なくとも有利に戦えることは間違いありません。

これを解析的に正しく再現し,どこの偉い先生方に見ていただいても納得していただけるロジックとしてまとめれば,相手先建築士もきっと喜んでくれるに違いない。

口で言うのは簡単ですが,免震構造の評定案件では上下動のこともありますので,一貫計算で非線形解析を行うと,通常案件のようにEXCELシートか何かで別途計算するような外部処理はできなくなります。具体的な方法については,このブログで追々話して行きたいと思います。

ただ,この方法は面圧を一回検討するのに恐ろしく時間がかかることだけが難点ですね(苦笑)。

とりあえず,メーカーさんは免震建物の設計に用いることを想定したわけではないでしょうが,多くの構造事務所で使われているユニオンシステムさんの「Super Build/SS3」を使って出来ます,とだけ申し上げておきます。
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