主架構とタワーパーキングの衝突解析
超高層建築物の中には,主架構の中にタワーパーキング(以下,TPと略す)を内蔵する形式の建物が少なくありません。
私が過去に解析に携わった建物はすべて,TP作動時の振動や騒音を建物に伝えないようにTPが内部で自立しており,主架構とは数cm程度の水平クリアランスを持っている形式で,水平力に対しては抵抗せずに主架構に預ける形式でした。
よって,TP自身の水平剛性は小さく,主架構よりかなり長い固有周期を持ちます。
このような場合,設計には主架構だけの剛性とTP荷重を含む質量による応答解析結果を用いますが,この前提条件を成立させるには,地震時に防振ゴムのクリアランスを越えて互いが接触しても,主架構とTPの間でのせん断力の移行がほとんどなく(瞬間的な加速度応答は出ますが),またTPは主架構の変形に十分追従可能な構造であることを証明する必要があります。
もし,TPの水平剛性が高く,防振ゴムに接触した際に主架構からTPへ無視できないほどのせん断力の移行があれば,応答解析の前提が崩れるからです。
高層評定や免震評定の場では,TPを内蔵する場合は前述の前提条件が成立することの証明が不可欠のようです。
検討せずに委員会にかけると,次の部会までの短い時間で慌てて追加検討を行うはめになります。
クリアランスを開けて離れている構造物同士が接触した際の解析を行うことから,私は勝手に衝突解析と呼んでいますが,要するに以上のような応答性状の異なる二つの構造物の連成解析のことを指します。
私が最も得意とする解析業務のひとつです。
さて,実際に衝突解析を行おうとすれば相応の道具が必要となります。
私の手持ちの道具でも質点系並進解析プログラムであるSS21/DynamicPROでは解析できません。上階でのツインタワー形状程度は扱えますが,質点iの上に質点jがあり,その間に要素があることを前提としているからです。
また,主架構がFrame1でTPがFrame2,これらを接続する要素としての防振ゴムをFrame3とするような複数フレームの定義が出来ないからです。
そこで,質点と要素の関係性のデータを記述すれば形状に一切制限のないSS21/SuperDynamicPROの出番となります。
一般には捩れの自由度を考慮したいときに使うイメージですが,それだけじゃあまりにも勿体無い。
過去のブログでも書きましたが,SuperDynamicPROはバッチ形式でコマンドを記述する必要があるため入力には手間と時間がかかりますが,極めて自由度の高いプログラムです。
一般には利用者も出番もそれほど多くないかもしれませんが,イザっ!というときには心強い味方になってくれます。
長年付き合ってきた建築士のひとりは,私がその自由度の高さを証明してみせると,「まるで背中に羽が生えて自由に空を飛べるような気分です」という忘れえぬ名言を残しました(笑)。
このSuperDynamicPROを自在に扱えることが,私のノウハウであり技術の一部ではありますが,建築士をサラブレッドに例えると,自由に空を飛べるペガサスのようなサレブレッドがもっと増えると嬉しいですから,ロバなGenSは出来るだけオープンにして行きたいと思っています。
解析協力も喜んでいたします。以降はご自身で出来るように丁寧に解説もいたします。
ただ,並進解析のDynamicPROは使い勝手の良さと後発プログラムならではの先進性から,事実上No.1のシェアを誇る振動解析プログラムですが,SuperDynamicPROは昔ながらのバッチ形式の入力で,マウスでCAD的に入力することに慣れてしまった若い世代にはどうも敷居が高いようで,これを所有する方は極めて少ないです。
だから,このブログでコマンドの記述例なんかを事細かく解説しても,それで皆さんのお役に立てるわけでも面白いわけでなさそうですので,こんなことも出来ます,あんなことも出来ますといった,イザっ!という場面での解析事例を紹介して行きたいと思います。
一応,続きに防振ゴムの復元力特性の設定例と応用例を示します。もしご興味があればどうぞ!
私が過去に解析に携わった建物はすべて,TP作動時の振動や騒音を建物に伝えないようにTPが内部で自立しており,主架構とは数cm程度の水平クリアランスを持っている形式で,水平力に対しては抵抗せずに主架構に預ける形式でした。
よって,TP自身の水平剛性は小さく,主架構よりかなり長い固有周期を持ちます。
このような場合,設計には主架構だけの剛性とTP荷重を含む質量による応答解析結果を用いますが,この前提条件を成立させるには,地震時に防振ゴムのクリアランスを越えて互いが接触しても,主架構とTPの間でのせん断力の移行がほとんどなく(瞬間的な加速度応答は出ますが),またTPは主架構の変形に十分追従可能な構造であることを証明する必要があります。
もし,TPの水平剛性が高く,防振ゴムに接触した際に主架構からTPへ無視できないほどのせん断力の移行があれば,応答解析の前提が崩れるからです。
高層評定や免震評定の場では,TPを内蔵する場合は前述の前提条件が成立することの証明が不可欠のようです。
検討せずに委員会にかけると,次の部会までの短い時間で慌てて追加検討を行うはめになります。
クリアランスを開けて離れている構造物同士が接触した際の解析を行うことから,私は勝手に衝突解析と呼んでいますが,要するに以上のような応答性状の異なる二つの構造物の連成解析のことを指します。
私が最も得意とする解析業務のひとつです。
さて,実際に衝突解析を行おうとすれば相応の道具が必要となります。
私の手持ちの道具でも質点系並進解析プログラムであるSS21/DynamicPROでは解析できません。上階でのツインタワー形状程度は扱えますが,質点iの上に質点jがあり,その間に要素があることを前提としているからです。
また,主架構がFrame1でTPがFrame2,これらを接続する要素としての防振ゴムをFrame3とするような複数フレームの定義が出来ないからです。
そこで,質点と要素の関係性のデータを記述すれば形状に一切制限のないSS21/SuperDynamicPROの出番となります。
一般には捩れの自由度を考慮したいときに使うイメージですが,それだけじゃあまりにも勿体無い。
過去のブログでも書きましたが,SuperDynamicPROはバッチ形式でコマンドを記述する必要があるため入力には手間と時間がかかりますが,極めて自由度の高いプログラムです。
一般には利用者も出番もそれほど多くないかもしれませんが,イザっ!というときには心強い味方になってくれます。
長年付き合ってきた建築士のひとりは,私がその自由度の高さを証明してみせると,「まるで背中に羽が生えて自由に空を飛べるような気分です」という忘れえぬ名言を残しました(笑)。
このSuperDynamicPROを自在に扱えることが,私のノウハウであり技術の一部ではありますが,建築士をサラブレッドに例えると,自由に空を飛べるペガサスのようなサレブレッドがもっと増えると嬉しいですから,ロバなGenSは出来るだけオープンにして行きたいと思っています。
解析協力も喜んでいたします。以降はご自身で出来るように丁寧に解説もいたします。
ただ,並進解析のDynamicPROは使い勝手の良さと後発プログラムならではの先進性から,事実上No.1のシェアを誇る振動解析プログラムですが,SuperDynamicPROは昔ながらのバッチ形式の入力で,マウスでCAD的に入力することに慣れてしまった若い世代にはどうも敷居が高いようで,これを所有する方は極めて少ないです。
だから,このブログでコマンドの記述例なんかを事細かく解説しても,それで皆さんのお役に立てるわけでも面白いわけでなさそうですので,こんなことも出来ます,あんなことも出来ますといった,イザっ!という場面での解析事例を紹介して行きたいと思います。
一応,続きに防振ゴムの復元力特性の設定例と応用例を示します。もしご興味があればどうぞ!
主架構とTPの衝突解析を行うには,主架構がFrame1でTPをFrame2とし,Frame1と2を繋ぐFrame3を防振ゴムとする三つのフレームで定義することになります。
Frame3のバネは主架構が防振ゴムに接するまではゼロで,接してはじめて防振ゴムの動剛性が働くというバネです。
これを,初期剛性に対して第一(第二)降伏点荷重と第一(第二)剛性低下率を与えるという一般の復元力特性モデルでは表現できません。
バネマスモデルで初期バネがゼロは有り得ませんせんもんね。
もちろんこの手の解析に特化した機能を持つプログラムもないでしょうし,プログラムの機能に頼らなくても,初期剛性を微少値としたBi-linear型復元力特性としてモデル化すれば,やりたいことは出来ますから。
そこで,第一剛性低下率を1000や10000といった大きな値とし,逆に初期剛性を実際の1/1000や1/10000の微少値とします(桁落ちしない範囲で)。
これで初期剛性はゼロではないので,クリアランス量は第一降伏点荷重で調整可能になります。
更に履歴タイプを「逆行型」とすることで,履歴減衰を生じない防振ゴムを介した主架構とTPの接触を表現することができます。
もし剛性低下率が低下する側にしか働かない(=上限が1.00)プログラムなら,この手のモデル化は出来ませんね。大抵のプログラムは初期剛性に対して単純に剛性低下率を乗じているだけだと思いますが・・・。
この逆行型Bi-linearモデルを使うと,免震建物が免震層の水平クリアランスを超えて擁壁に衝突するという不測の事態の応答確認にも応用が利きます。
主架構と逆行型Bi-linearにモデル化した擁壁要素を直列で繋ぎ,あとは擁壁・地盤間の要素を極値にすれば出来上がりです。
細かなことを言えば,免震層=Swayと定義するとこの解析は出来ません(Sway要素に直列バネを繋げない)ので,免震層も上部構造の要素として定義し,Sway=固定(または地盤)とする必要があります。
ただし,そのままでは免震材料にも内部粘性減衰が考慮されるため,免震材料の粘性減衰を評価しないようにひと手間かかります。柱頭免震や中間層免震にも同様の注意が必要です。
このことは,ユニオンさんの道具に限ったことではありませんので,Sway=免震層としない場合には,皆さん減衰性評価には注意しましょう!
ここだけの話ですが,概要書には「免震材料の粘性減衰は考慮しない」と謳っておいて,実際の計算には考慮してしまっている設計を多く見ました。
もちろん意図的にではなく,設計者が誤りに気付いていないという意味です。
だからといって応答が極端に変わるわけではありませんので,設計が根底から覆るような話しではありませんが,評定や確認申請の場に行っても誰も気付かない=最後まで誰も気付かない「誤り」は,実はこれに限らず結構ありますね。
だからこそ解析を請け負う私は,絶対に間違ってはいけないんです。
これからも正しい解析ロジックの構築と正しい計算実行を心がけます。
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Frame3のバネは主架構が防振ゴムに接するまではゼロで,接してはじめて防振ゴムの動剛性が働くというバネです。
これを,初期剛性に対して第一(第二)降伏点荷重と第一(第二)剛性低下率を与えるという一般の復元力特性モデルでは表現できません。
バネマスモデルで初期バネがゼロは有り得ませんせんもんね。
もちろんこの手の解析に特化した機能を持つプログラムもないでしょうし,プログラムの機能に頼らなくても,初期剛性を微少値としたBi-linear型復元力特性としてモデル化すれば,やりたいことは出来ますから。
そこで,第一剛性低下率を1000や10000といった大きな値とし,逆に初期剛性を実際の1/1000や1/10000の微少値とします(桁落ちしない範囲で)。
これで初期剛性はゼロではないので,クリアランス量は第一降伏点荷重で調整可能になります。
更に履歴タイプを「逆行型」とすることで,履歴減衰を生じない防振ゴムを介した主架構とTPの接触を表現することができます。
もし剛性低下率が低下する側にしか働かない(=上限が1.00)プログラムなら,この手のモデル化は出来ませんね。大抵のプログラムは初期剛性に対して単純に剛性低下率を乗じているだけだと思いますが・・・。
この逆行型Bi-linearモデルを使うと,免震建物が免震層の水平クリアランスを超えて擁壁に衝突するという不測の事態の応答確認にも応用が利きます。
主架構と逆行型Bi-linearにモデル化した擁壁要素を直列で繋ぎ,あとは擁壁・地盤間の要素を極値にすれば出来上がりです。
細かなことを言えば,免震層=Swayと定義するとこの解析は出来ません(Sway要素に直列バネを繋げない)ので,免震層も上部構造の要素として定義し,Sway=固定(または地盤)とする必要があります。
ただし,そのままでは免震材料にも内部粘性減衰が考慮されるため,免震材料の粘性減衰を評価しないようにひと手間かかります。柱頭免震や中間層免震にも同様の注意が必要です。
このことは,ユニオンさんの道具に限ったことではありませんので,Sway=免震層としない場合には,皆さん減衰性評価には注意しましょう!
ここだけの話ですが,概要書には「免震材料の粘性減衰は考慮しない」と謳っておいて,実際の計算には考慮してしまっている設計を多く見ました。
もちろん意図的にではなく,設計者が誤りに気付いていないという意味です。
だからといって応答が極端に変わるわけではありませんので,設計が根底から覆るような話しではありませんが,評定や確認申請の場に行っても誰も気付かない=最後まで誰も気付かない「誤り」は,実はこれに限らず結構ありますね。
だからこそ解析を請け負う私は,絶対に間違ってはいけないんです。
これからも正しい解析ロジックの構築と正しい計算実行を心がけます。
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