文系出身者の建築構造計算 GenS Weblog

建築構造計算に関する情報 と 文系出身のGenSが極めて私見を綴ったWeblogです。たまに趣味ネタも書いてます。


長周期地震動

今頃になって,昨年12月21日に国交省から出たパブリックコメント「超高層建築物等における長周期地震動への対策試案について」を読んでいます。

友達やら知り合いにも「どう思う?」「何か準備してる?」って聞いたりもしてます。

返ってくる答えは,「今は様子見」から「地震波作成の準備中」まで様々ですが,パブリコが出た以上,形はどうであれ義務化されることは間違いありません。

私が今一番気にしてるのは,既存建築物に対する適用の方ですね。

スペクトルを見る限り「おおむね6〜7秒辺りにピークを持っており,エネルギーとしてはそれほど大きくない」という感想です。

試しに今計画してる免震案件を長周期地震動で振ってみても,応答は告示波には及ばない結果です。(試しに1波振っただけですので断定的には言えませんが・・・)

新築案件で多少影響が出るのは,かなり周期の長い免震建築物だけかなぁと。
それでも新築案件ならダンパー量の調整で何とでもなるんじゃないかと思います。

となれば,什器の固定のことしか残りませんが,それは構造屋の仕事でもないし,具体的に義務化されるまで放っておいても大丈夫かなぁって感じです。

やはり問題は既存の方かもしれません。

「そんなの無理に決まってるじゃん!」「誰が金出すのよ?」とか,「仮にやったとして,超高層は一般建築物みたいに耐震壁や鉄骨ブレースで補強するわけには行かないでしょ?!」とか,「やれっこない!」という意見が大勢を占めます。

以下は,免震構造に大変明るく業界通の友人から聞いた話を要約したものです。

どうもお上は,これから建てる新築案件というより既存の超高層建築物の再計算と補強を目論んでいるふしがあるようなんです。それも,主に都市部の耐震超高層がターゲットだというんです。

確かに,旧38条の時代には標準3波(あるいは4波)だけで設計された建築物も多く,しかもスペクトルの谷間を狙って設計したような建築物も少なくありません。中には20kine&40kineで設計された建築物も存在します。

逆に言えば,2000年以降の告示波を使って設計された建築物は,設計用地震動に長周期成分も相応に含まれていて,かつエネルギー量としても十分に大きいので,特に問題視していないということみたいです。

パブリコを読んでいても,別紙1に示される区域0〜9以外の長周期地震動の考慮を必要としない地域の扱いは,
    50kine以上の標準3波
    地域係数Z=1.0とした告示波(120秒以上,ランダム位相)
とあるだけです。

本当に区域外では,以上の条件さえ満たせば設計用長周期地震動を作成・考慮する必要がないのであれば,地域係数のことを除けば特に今までと何ら変わりません。

該当区域なら,与えられた設計用長周期地震動(基盤波)を使って建築地の地表波を作成し,それを採用地震波に加えるだけですし,これで設計が大きく変わるケースも稀と考えられるので,特に心配することもなかろうという感想です。

もうひとつは,法制化されるか否かという点です。

もし告示化するとなれば,パブリコの受付を終了して内容の修正等を行う時間より,法律家の手に渡ってからの方が長く時間を要します。そうなれば年内はまず無理で来年以降の話になります。

しかも時刻暦応答解析で設計された建築物(いわゆる評定物件)だけが対象ですから,役所等の確認検査機関で確認申請を行う一般建築物には何の関係もありません。

となると,BCJやGBRCあるいはERIなどの安全審査を行う期間への指導だけなんじゃないかと考えられるんです。具体的には,別表に「長周期地震動への対策」って項目が追加されるんじゃないかってことです。

たとえそれだけでも,委員会や部会で所見を求められた際に「特に何もしてません」じゃ説得できませんから,縛りとしては十分です。あえて法制化する必要もありません。
もしそうなら,今年のうちに義務化されることも十分に考えられます。

でもやっぱり,本当に既存建築物が真のターゲットなら,その費用は一体誰が出すのか?って疑問が付きまといます。その責務を施主にもって行けるはずもありませんから。
もし,たとえ一部でも国や都道府県が費用を負担するというのなら,多少は景気回復にも影響するでしょうし,「私の仕事も増えるかも」なんて下心も沸いてきますけど(笑)。

それに,再計算した結果「問題なし」ならいいんですが,万一「要補強」なんてことになったら,超高層では補強といより減衰力アップしか道はありませんし,外付けフレームのような「居ながら工事」はできませんからね。それも大きな問題です。

お上の狙いは,本当に都市部の耐震超高層の制震化なんでしょうか???

慌てることも恐れることもありませんが,情報収集は注意深く行う必要がありそうです。

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