文系出身者の建築構造計算 GenS Weblog

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推定崩壊荷重の倍率 その2

前回に続いて,SS3の保有水平耐力計算に関する条件である「推定崩壊荷重の倍率」についてお話しします。

概要は前回お話ししたとおりですが,もう少し細かく説明します。
その前におさらいをしておくと・・・

推定崩壊荷重とは,荷重漸増解析を行う際に水平載荷する荷重の総量です。

この推定崩壊荷重は,Qudに推定崩壊荷重の倍率を乗じて得られます。

例)
Qud=1000kN
推定崩壊荷重の倍率=0.3
推定崩壊荷重までのステップ数=50
とすると・・・

推定崩壊荷重=1000kN×0.3=300kN
1ステップ当たりの荷重漸増量=300kN÷50=6kN(等分割の場合)

となります。

前回もこの項目に神経質になる必要はないと申し上げましたが,総量といっても1ステップ当たりの荷重量を算出するための総量であって,そこまで達したら解析がストップするわけでも,何か他の結果に影響するわけでもありません。

解析終了は,層間変形角や脆性破壊,あるいは最大ステップ数など,設定した解析終了条件のいずれかに達した時点です。いずれかの解析終了条件に達しない限り,推定崩壊荷重に達しても解析は続行されます。

たとえば上例で,推定崩壊荷重の倍率=0.6,推定崩壊荷重までのステップ数=100としても,あるいは0.15と25ステップにしても,1ステップ当たりの荷重増分量に変化がないことは容易に理解できると思います。

以上のような意味合いのデータなので,極端に言えばプログラムの動作には必要のないデータです。

Qudを推定崩壊荷重までのステップ数で直接除して,1ステップ当たりの荷重増分量を決める仕様でも構わないわけです。そのことを利用者が理解していれば済むことで別に困りはしません。

では,「推定崩壊荷重の倍率」の工学的な意味合いは何でしょうか。

それは,何に対する50分割なのか?100分割なのか?

答えは,分割の対象を必要保有水平耐力Qunとするため,と言えるでしょう。

前回,「Ds×Fes程度の値を設定すればよい」と申し上げたのはこういう理由からです。

Ds×Fes程度にしておけば,推定崩壊荷重までのステップ数を設定する際に,「必要保有水平耐力Qunを○○分割しよう」と考えることができます。
たとえば50分割といっても,何を50分割するのかハッキリしてなければ,それで十分なのか不足しているのか判断すらできませんから。

「推定崩壊荷重の倍率」なんて仰々しい名前ですが,要するに「分割対象を何に(主にQunに)するかを自分で設定するためのデータ」と言えるでしょう。

また,推定崩壊荷重=必要保有水平耐力Qunとする理由には,解析実行画面を眺めているだけで,おおむね保有水平耐力を満足したか否かを判断できる,という理由もあります。

それは,たとえば推定崩壊荷重までのステップ数を50と設定し,解析が60ステップで終了したとすれば,Qu/Qun=1.2程度の余裕度があると推測できるからです。

また,推定崩壊荷重の倍率の過不足も解析実行時の画面から判断できます。

もし,推定崩壊荷重までのステップ数が50なのに,解析が100ステップも200ステップも進んでしまうようなら,推定崩壊荷重が保有水平耐力Quより小さいと判断できます。

以上のような意味合いのデータなので,Fes値を除けばおおむね想定するDs値程度としておけばよく,解析精度と解析時間は推定崩壊荷重までのステップ数で適宜調整するのがよいと思います。

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